審決取り消し判決の拘束力の及ぶ範囲(昭和63年(行ツ)第10号、最高裁平成4年4月28日第3小法廷判決)

事件名

高速旋回式バレル装置事件

論点

知財高裁による審決取消判決の拘束力は、どんな範囲に及ぶのか?

事実関係

・Xは特許権者
・Yは、Xの特許の進歩性違反を理由に、無効審判を請求した。

・特許庁は、無効審決をした。

・特許権者のXが、出訴した。

・東京高裁は、無効審決を取り消す判決をした。
(東京高裁は、引例の技術内容について審判官がした認定は、誤っていると述べた。つまり、第2引用例あるいは第3引用例からXの発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとは認められない、として審決を取り消した。引例1については、判断されなかった。)

 ・審判請求人のYが、出訴しなかったので、取り消し判決が確定した

・事件が特許庁にもどり、事件が審判官によって審理された。(この審判を、「再度の審判」という)

 ・審判官は、無効審判の請求の不成立審決をした。(この不成立審決を、「本件審決」あるいは「再度の審決」と呼ぶ)
(審判官は、Xの発明は特許出願前に当業者が第1、第2、第3引用例から容易に発明することができたとはいえないとした)

・無効審判請求人のYが出訴した。(この訴訟を、「再度の審決取り消し訴訟」と呼ぶ)

・東京高裁は、再度の審決取り消し訴訟において、つぎのように述べて、不成立審決を取り消す判決をした。

「 引用例1と2と3から、容易に推考可能とした再度の審決取消訴訟において、当事者が、再度の審決の認定判断した論点に係るものではあるが、右認定判断において審究・説示されていない事項であって右認定判断を否定する方向の事実を裏付ける証拠を提出した場合には、裁判所が右証拠による事実認定に基づいて再度の審決の認定判断を違法とすることは許されてしかるべきであり、取消判決の拘束力の法理はこれを妨げるものではない。
 本件において、第2引用例記載のもののバレル内のマスの挙動及び研磨量、工作物の研磨後の表面粗さが本件発明と対比して実質的に差異がないことは、被上告人が再度の審決取消訴訟である原審に至って提出した前記証拠によって裏付けられるのであり、しかも、この点については、本件審決の認定判断において具体的に審究・説示されていない以上、本件審決の認定判断を誤りとすることは何ら妨げられないというべきである。」

・特許権者Xが上告した。


本判決の結論

・破棄自判(Xの請求棄却)

・判旨
「原審の右認定判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定により、(知財高裁による)取消判決の拘束力が及ぶ。

そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。

したがって、再度の審判手続において、審判官は、

① 取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、

あるいは
 ② (従前の)主張を裏付けるための新たな立証をすること を許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。

このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた再度の(特許庁の)審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)事由たり得ないのである(取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断の当否それ自体は、再度の審決取消訴訟の審理の対象とならないのであるから、当事者が拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断を誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返し、これを裏付けるための新たな立証をすることは、およそ無意味な訴訟活動というほかはない)。  

以上に説示するところを特許無効審判事件の審決取消訴訟について具体的に考察すれば、「特定の引用例」から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により、審決の認定判断を誤りであるとしてこれが取り消されて確定した場合には、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は「同一の引用例」から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないのであり、

したがって、再度の審決取消訴訟において、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである(同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができた)として、これを裏付けるための新たな立証をし、更には裁判所がこれを採用して、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである。

これを本件についてみるのに、

(1)前判決は、・・・第2引用例記載のもののバレルの構成を、本件発明のバレルの構成と置換することが容易でないことはいうまでもない・・・また、第3引用例記載のものは本件発明と研磨法を異にするとして、第2引用例あるいは第3引用例から本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとは認められないとして前審決を取り消したものであり、

 (2)前判決確定後にされた本件審決は、前判決の拘束力に従い、本件発明は特許出願前に当業者が第2引用例あるいは第3引用例から容易に発明することができたとはいえないとしたものである。

 (一般に)再度の審判手続において審判官は、前判決が認定判断した同一の引用例(第2引用例あるいは第3引用例)をもって本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたか否かにつき、前判決とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは、取消判決の拘束力により許されないのであるから、

 本件審決は、右取消判決の拘束力に従ってされた限りにおいて適法であるとされなければならない。

しかるに、原審は、原審において提出された前記甲第一二号証及び第一四号証の一ないし三を採用して、右各証拠によると、本件発明と第2引用例記載のものとは・・・格別の差異はなく、作用効果にも顕著な差異はないことが認められるとした上で、

第2引用例記載のもののバレルの形状を本件発明のバレルの形状に置換することも、第1ないし第3引用例及び周知慣用手段から当業者に容易であるとした。

(ここで)前判決の拘束力に従ってされた本件審決の取消訴訟において、前判決が特定の引用例(第2引用例)記載のものは本件発明とはマスの挙動や作用効果が大きく異なり、右引用例から本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとした認定判断を否定する主張立証の許されないことは前述のとおりである。

(しかし)しかるに、原判決は、許さるべきでない主張立証を許し、これを採用した結果、本件発明と第2引用例記載のものとはマスの挙動や作用効果に格別の差異はなく、本件発明は特許出願前に当業者が第2引用例から容易に発明することができた旨前判決の拘束力の及ぶ前記認定判断とは異なる認定判断をした点において、取消判決の拘束力に関する法令の解釈適用を誤った違法があることが明らかである。

原判決は、右認定判断の過程で、第3引用例並びに前判決において検討されていない 第1引用例及び周知慣用手段について検討を加えてはいるものの、これらは(第2引用例記載のものと本件発明とのマスの挙動や作用効果に格別の差異はないとの認定判断の後に、第2引用例記載のもののバレルの形状を本件発明のバレルの形状に置換することの容易性についての認定判断の際に用いられており)、本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたか否かを認定判断する際の独立した無効原因たり得るものとして、あるいは第2引用例を単に補強するだけではなくこれとあいまって初めて無効原因たり得るものとして、検討されているのでなく、原判決は、第2引用例を主体として、本件発明の進歩性の有無について認定判断をしているものにほかならない。

したがって、第1引用例及び周知慣用手段がその判断の際に用いられているにしても、原判決に前記の違法があることに変わりはなく右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

 そして、被上告人Y(審判請求人)は、第1ないし第3引用例のいずれからも本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとした本件審決の認定判断を違法であるとして、その取消しを求めているが、

第2引用例あるいは第3引用例から本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとした本件審決の認定判断は、前判決の拘束力に従ったものであって適法であることは前判示のとおりであり、また、第1引用例及び周知慣用手段が、「独立の無効原因たり得るもの」あるいは「第2引用例を単に補強するだけではなくこれとあいまって初めて無効原因たり得るもの」とはいえないことは原判決の判示するとおりであるから、

第1引用例から本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとした本件審決の認定判断もまた適法である。

以上説示したところによれば、被上告人の審判の請求は成り立たないとした本件審決は適法であり、その取消しを求める被上告人Yの請求は理由がないことが明らかであるから、これを棄却すべきである。

よって、行政事件訴訟法7条、民訴法408条、96条、94条、89条、93条に従い、裁判官園部逸夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官園部逸夫の補足意見は、次のとおりである。 

私は法廷意見のうち論旨に対する判断には賛成であるが、その前提となる行政事件訴訟法33条1項の解釈については、法廷意見とは別の解釈をとっているので、以下、私の補足意見を述べることとする。

いわゆる当事者系無効審判の審決について、裁判所に取消しの訴えを提起できることは、特許法178条及び181条1項の規定に照らし明らかであるが、特許法及び行政事件訴訟法の関係条文は、右取消しの訴えの訴訟形態に適合した運用について明確で整合性のある規定を具備しているとはいえない状態にある。

当事者系無効審判の審決に対する訴えについては、当事者、参加人等(特許法178条2項)が、事案に応じて当該審判の請求人又は被請求人を被告として提起することができるとされている(同法179条ただし書)。

したがって当事者系審決取消訴訟は、行政庁(審判官、特許庁長官等)を被告としない取消訴訟という点で、典型的な取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)と異なるのみならず、原被告間の法律関係を確認し又は形成する処分に関する訴訟ではないという点で、いわゆる形式的当事者訴訟(同法4条前段)ともその性格を異にするのである。

この点について、当事者系審決取消訴訟は、その実質において、行政庁(審判官ひいては特許庁長官)の公権力の行使に関する不服の訴訟であることから、行政事件訴訟法の取消訴訟に関する規定(同法二章一節)を適用することが妥当であるとする見解があるが、私は、当事者系審決取消訴訟の根拠法規については、行政事件訴訟法の当事者訴訟に関する規定(同法三章)を準用するか、あるいは、立法論として、本件で問題とされている事柄に関する明文の規定を置くことも含めて、特許法上、特殊な当事者訴訟に関する規定を設けることが望ましいと考えている。

しかし、解釈論としては、当事者訴訟の規定を準用する場合でも、本件の争点に関する問題は同様であるから(同法41条1項)、ここでは、取消訴訟の規定と当事者系審決取消訴訟との関係一般の問題として検討することとする。 

まず、当初の審決取消判決が確定したときに右判決が再度の審判における審判官の審決に及ぼす効力については、従来の実務では、右審決に当たる審判官に対し、行政事件訴訟法33条1項の規定を適用し、審決を取り消す判決は、その事件について、審判官を拘束するとしている。

私は、右条項の定める取消判決の拘束力は、取消判決の実効性を担保するために、右規定によって与えられた特殊の効力であり、当事者たる行政庁のみならずその他の関係行政庁に対して処分を違法とした判決の内容を尊重し、当該事件について判決の趣旨に従って行動すべきことを義務づけたものであると解する(同条2項参照)。

ところが、当事者系審決取消訴訟においては、当事者たる行政庁は存在せず、審判官を右条項にいう関係行政庁と見ることもできないので、同法33条の規定をそのまま適用することはできないと解すべきであるが、右取消訴訟が特許法上の特殊な取消訴訟として取り扱われていることを考慮して、当事者訴訟について行政事件訴訟法41条により同法33条1項を準用するのと同様の趣旨により、当事者系審決取消訴訟についても、同法33条1項を準用することとし、実質上の当事者たる行政庁としての審判官は、前訴の判決の趣旨に従い審決をしなければならないものと解するのである。

ここまでは、従来の実務及び本判決の法廷意見のとる見解とほぼ同意見であるが、更に進んで、再度の審判の審決を不服として提起された再度の審決取消訴訟の審理判断において、当初の審決取消訴訟の判決の趣旨に従ってされた当該審決を、その限りにおいて適法であるとし、これを違法とすることができないということについては、法廷意見が述べるように当然の理であるとは考えない。

前に述べたとおり、行政事件訴訟法33条は、取消判決の実効性を担保するという政策的な見地から、当該処分に関係のある行政庁に対し判決の趣旨に従うべきことを規定したのにとどまり、当初の審決取消訴訟の判決が再度の審決取消訴訟の係属する裁判所の審理判断をも当然に拘束することを規定したものではないと解されるからである。

通常の取消訴訟では、再度の訴訟が提起されて本件のような問題の生ずることは例外といってよいと思われるが、特許無効審判という通常の行政庁の処分とは異なった態様の手続を前審手続とする審決取消訴訟の特殊性がある上、最高裁判所昭和五一年三月一〇日大法廷判決(民集三〇巻二号七九頁)の判旨から見ても、再度の審判において、当事者双方による新たな主張立証が行われ、事案によっては更に手続が反復されることにより、無効審判及び審決取消訴訟が際限なく続けられる可能性を否定することができない。

このような性格を有する審決取消訴訟については、私は、右訴訟が当事者訴訟的性格を有することを重視する見地に立って、当事者訴訟について行政事件訴訟法33条1項を準用する場合の後訴の裁判所に対する右規定の意義という観点から解釈を加える必要があると考える。

すなわち、右規定の背後にある公益性への配慮あるいは迅速で実効性のある訴訟の遂行という法意にかんがみれば、当初の審決取消訴訟に続く累次の訴訟においで、裁判所は、従前の各確定判決の理由中の認定判断から審決の根拠となるべき行為規範を見出し、それとの関係において、審決の適法性を審理し判断することが、行政事件訴訟の制度の趣旨にも合致した妥当な処理であると考えるのである。 

右に述べたような見地から、私は、法廷意見三の3に示された理由により、本件審決の認定判断を適法と認めるのである。

まとめ

この事件の流れを整理してみましょう。

まず、Xの特許に無効審決がなされ、その後、その審決を取り消す判決Aが確定しました。
取り消し判決Aは、引例2あるいは引例3から進歩性は否定されない、と理由でいいました。

そして、その取り消し判決後に、Yが出訴しなかったので、判決Aは確定したのです。

その後、再び審判が開かれ、再度の審決がなされました。

この再度の審決は、取り消し判決Aの拘束力に従って、なされました。
この審決は、引例1~3から進歩性が否定されない、と理由でいいました。
これは取り消し判決Aとなんら矛盾しておらず、取り消し判決Aとの関係では、適法になされました。

しかし、再度の審決取り消し訴訟Bで、裁判官は、審決が違法であると判決で述べたのです。
最高裁によれば、取り消し判決Bは引例2を主体として進歩性を否定したのです。

この判決Bは、確定した判決Aと矛盾します。

したがって、最高裁は、判決Bを破棄したのです。


解説
 
 東京高裁は、行政事件訴訟法33条1項を知らなかったわけではありません。取り消し判決の拘束力の及ぶ範囲について、最高裁とは、見解が異なっていたために、このように判決が破棄されたにすぎないのです。

 拘束力の範囲については、学説もいろいろあり、解説内容は弁理士試験の範囲を超えてしまいます。うまく解説できる自身もありません笑 特許判例百選の塩月秀平氏に解説は譲りたいと思います。興味のある方は、お手元の判例百選ご参照ください。

 万が一、弁理士試験にこの判例が出るとすれば、事案はこの事件とまったく一緒になると思います。

論文で予想される問われ方と、答案のテンプレ

問題 再度の審決取消訴訟で、・・・を理由とする取り消し判決をすることができるか?

結論
 ・・・・・・である。

理由 
 一般に、特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い、審決をすることとなる。
 ここで審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定により、知財高裁の取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものである。
 従って、審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。
 ゆえに、再度の審判手続において、審判官は、
1.取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは 
2.従前の主張を裏付けるための新たな立証をすることを許されない。
すなわち、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない。

 本問においては、第一次取消判決は・・・という理由であり、再度の審判では、第一次取消判決の拘束力に従い・・・という理由で第二次審決がなされた。

 よって、再度の審決取消訴訟では、・・・を理由とする取り消し判決をすることはできない。第一次取消判決の認定判断に抵触する認定判断をするものとなるからである。