刊行物への発表(昭和61年(行ツ)第160号、最高裁昭和61年7月17日第1小法廷判決)

最高裁昭和61年7月17日第1小法廷判決

争点

発行された特許公報に記載された発明は、特許法30条1項(平成24年法改正後は30条2項に対応)の新規性の喪失の例外の適用を受けられるか?

事実関係

・「第三級環式アミンの製法」を、日本、西ドイツ、オランダに出願していた出願人がいた
・それらの出願は出願公開された
・その後、日本は、法改正により昭和51年1月1日以降の出により物質特許が取得できるようになった
・出願人は、その昭和51年1月1日に、新規性喪失の例外(刊行物への発表をしたとして)の適用を受けるつもりで、「第三級環式アミン」の特許出願をした。
・特許庁は、拒絶審決(理由: 30条1項にいう「発表」ではない)
・東京高裁は、棄却(理由:30条1項の「刊行物」に、公開特許公報が含まれない)
・出願人は、30条1項の「刊行物」にも、29条と同様に公開特許公報が含まれると解釈するべきとして、上告。

本判決の結論

・棄却
・判旨

「特許を受ける権利を有する者が、特定の発明について特許出願した結果、その発明が公開特許公報に掲載されることは、特許法三〇条一項にいう「刊行物に発表」することには該当しないものと解するのが相当である。

けだし、同法二九条一項のいわゆる新規性喪失に関する規定の例外規定である同法三〇条一項にいう「刊行物に発表」するとは、特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に刊行物に発表した場合を指称するものというべきところ、

公開特許公報は、特許を受ける権利を有する者が特許出願をしたことにより、特許庁長官が手続の一環として同法六五条の二の規定に基づき出願にかかる発明を掲載して刊行するものであるから、
これによって特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に当該発明を刊行物に発表したものということができないからである。

そして、この理は、外国における公開特許公報であっても異なるところはない。

したがって、原判決は結論において是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。」

解説

上記のように、東京高裁は、30条1項の「刊行物」に、特許公報が含まれないとの理由で、30条1項の適用なしと判断しました。

しかし、最高裁は、特許公報が30条1項の「刊行物」にあたらないとは解釈せずに、「刊行物に発表」の解釈を述べ、30条1項の適用なしと結論づけました。

最高裁が、東京高裁の理論を採用しなかったのは、特許公報が「刊行物」にあたらないというのは、文言上、無理があると考えたからと言われています。

補足

従来の審査実務は、特許公報に掲載された発明に、新奇性喪失の例外の適用を認めていたようです。 しかし、昭和50年から、そのような適用を無くす運用に変更されました。

審査実務の変更後、変更した審査実務を是認する審決が出されるようになり、その審決に対し、審決取消訴訟を提起した案件が何件かあったようです。

本判決は、新しい審査実務の定着を図ったものであるといわれています。

補足2

平成24年の法改正により、上記の判決で問題となった30条1項が削除され、30条2項が創設されました。

改正後の30条2項では、発明、実用新案、意匠または商標に関する公報に掲載されたことにより29条1項各号のいずれかに該当するに至った発明について、新規性の喪失の例外が受けられないこととなっています。

つまり、上記の最高裁の結論が、明文化されました。