原子力エネルギー発生装置事件(昭和39年(行ツ)第92号、最高裁昭和44年1月28日第3小法廷判決)

事件名
原子力エネルギー発生装置事件(最高裁昭和44年1月28日第3小法廷判決
争点
 本件のエネルギー発生装置が、旧特許法一条にいう「発明」に該当するかどうか。

事実関係

・フランスにした出願を基礎出願として(パリ優先権)、「原子力エネルギー発生装置」について、日本に出願がされました。

・特許庁は、拒絶審決をしました。 (理由:産業上安全に利用することができない)
・特許出願人は、出訴しました。
・東京高裁は、出願人の訴えを棄却しました。(理由:産業界において安全確実に実施するための要件を欠き、技術的にみれば未完成で、工業発明をしたものとはいえない)
・出願人が上告しました。

本判決について

・最高裁は、出願人の上告を棄却しました。
・以下、判旨です。

「本願発明は、その明細書によれば、要するに、中性子の衝撃による天然ウランの原子核分裂現象を利用し、その原子核分裂を起こす際に発生するエネルギーの爆発を惹起することなく有効に工業的に利用できるエネルギー発生装置を得ることを目的とするものというのである。

そのような装置の発明であるとすれば、それは単なる学術的実験の用具とは異なり、少なくとも定常的かつ安全にそのエネルギーを取り 出せるよう作動するまでに技術的に完成したものでなければならないのは当然であって、そのためには、中性子の衝撃による原子核の分裂現象を連鎖的に生起させ、かつ、これを適当に制御された状態において持統させる具体的な手段とともに、右連鎖的に生起する原子核分裂に不可避的に伴う多大の危険を抑止するに足りる具体的な方法の構想は、その技術内容として欠くことのできないものといわなければならない。

論旨は、その装置が定常的かつ安全に作動することは発明の技術的完成の要件に属しないものと主張し、また、それが旧特許法一条にいう 工業的発明とするのには、発明の技術的効果が産業的なものであれば足りると論ずるが、本願発明が連鎖的に生起する原子核分裂現象を安全に統制することを目 的としたものであることに目を蔽うものであり、また、それが定常的かつ安全に実施しがたく、技術的に未完成と認められる以上、エネルギー発生装置として産業的な技術的効果を生ずる程度にも至っていないものといわざるをえない。

 発明は自然法則の利用に基礎づけられた一定の技術に関する創作的な思想であるが、特許制度の趣旨にかんがみれば、その創作された技術内容は、その技術分野における通常の知識・経験をもつ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体化 され、客観化されたものでなければならない。

 従って、その技術内容がこの程度に構成されていないものは、発明としては未完成であり、もとより旧特許法一条にいう工業的発明に該当しないものと いうべきである。

ところで、特許出願の手続においては、右のような発明の技術内容の全貌が明細書(その添付図面を含む。以下同じ。)のうちに開示され て、その記述が審査の対象となるわけである。その発明が技術的に完成されたものかどうかも、明細書の記述によつて判断されるのである。されば、右記述にお いて発明の技術内容が十分具体化、客観化されておらず、その技術分野における通常の知識を有する者にとって容易に実施可能とは認めがたいとすれば、その発明の実体は技術的に未完成のものとして発明を構成しないと判断して妨げないのである。原判決が、本願発明について明細書の記述の不完全から結局これを旧特 許法一条にいう工業的発明にあたらないと解したのは、このような見地に拠るものとして正当と認めることができる。」


解説

本判決では、 発明完成の要件について、一般論を述べています。

本件のエネルギー発生装置については、定常的かつ安全に実施できないことを理由に、「当業者が反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体化 され、客観化されたもの」ではないと判断されています。

法律書などでは、この事件を一般化して、安全性を欠く技術(たとえば副作用のある医薬)は「発明」に該当するのかどうかが議論されていることが多いようです。

なお、安全性を欠く発明については、「発明」かどうか論じるのではなく、「産業上の利用可能性」の要件の問題として捉える考え方もあります。

このような考え方がなぜ出てくるのかというと、ある技術Aが、安全性を欠くことにより「発明」にあたらないとすれば、ほかの技術Bが出願された時に、技術Aと技術Bがどれだけ近い技術であっても、技術Aにより技術Bの新規性や進歩性が否定されないという困った状態がj生じるからです(つまり、他の出願に与える影響が違ってきます)。

また、優先権の先願に記載された技術が、安全性を欠くことにより「発明」でない、となれば、優先権は発生しないことになり、当然に優先権の主張は無効であり、これも困ったことになるからでず。

 

感想等

・この事件は、36第4項(実施可能要件)が規定される以前の事件です。現行法であれば、反復可能性は、36第4項(実施可能要件)の問題となるでしょう。

・一説によると、本件の出願人は外国人であったため、この出願に特許を与える道を閉ざさないと、当時の日本の原子力技術の発展が遅れてしまうという懸念から、この出願人の上告を棄却したとも言われています。